本と旅する

「たとえ濃霧の中でも目を凝らせ」

recommended by Kiwamu Shiga
 
昨今の状況の下、SNSでは友人にバトンを渡しながら様々な「チャレンジ」の投稿がされています。「7日間ブックカバーチャレンジ」もその中のひとつで、私も友人の現代陶芸家の兼藤忍さんから本の紹介のバトンが届きました。

自分の本の紹介はまだ2冊目を終えたところなのですが、私がバトンを渡したい方はSNSのアカウントを持っていらっしゃらない方なので、この場を借りて「7日間ブックカバーチャレンジ」特別編として、友人の「志賀先生」こと 志賀 究(きわむ)さんに、おすすめの本の紹介をしていただくこととなりました。

題して

本好きな孤独な散歩者が夢想する7冊

「たとえ濃霧の中でも目を凝らせ」

 
現在の世界情勢と、突然のようにやってきた今までにない私たちの日常に合わせ、選んでくれた本は、

「独立峰ではなくて連峰のような7冊。縦走ルートで読むと『ことばのちから』をより深く感じ、思考することができるはず。」

とのこと。 山を愛し、知と芸術を愛する志賀先生からの、「今」を思考し、たくましく生きるためのおすすめの7冊を以下に紹介します。紹介文章は志賀先生ご本人によるものです。

 
【1冊目】
 

池澤夏樹 『終わりと始まり』

(朝日新聞社出版)
 
新聞に定期的に連載された時評。透徹した理系的思考と柔らかな文学的感性。池澤夏樹は自分の座標軸に常に影響を与え続ける作家だ。震災後、僕たちは何かを終わらせ、何かを始められたのだろうか。彼が世界文学として推す石牟礼道子『苦海浄土』は水俣病とコロナという違いを乗り越えて、現代社会を鋭く照射している。
 
 
【2冊目】
 

ノーマン・カンター 『黒死病』

(青土社)
 
中世ヨーロッパを襲ったペストが、世界をどのように変えたのかを歴史的考証によって丹念に描く。身分を越えて老若男女すべてが罹患し、死んでいく。差別もデマも蔓延し、キリスト教教義も封建的社会も灰塵と帰す。それは結果的に伝統的因習を破壊し、ヨーロッパが新たな大海原へ乗り出す転機となってゆく。副題は『疫病の社会史』。
 
 
【3冊目】
 

川成 洋 『幻のオリンピック』

(筑摩書房)
 
1936年はヒトラー政権下のベルリンオリンピックの年だ。史上初のギリシアからの聖火リレー。それは極めて政治的なプロパガンダとして誕生した。同年、ファシズムに対抗するもう一つのオリンピックがバルセロナで計画された。スペインの内乱で頓挫したこの人民オリンピックの顛末とは。オーウェル、ヘミングウェイ、ピカソ、キャパ、カザルス。忘れられた大戦前夜の攻防。
 
 
【4冊目】
 

長田 弘 『知恵の悲しみの時代』

みすず書房
 
この時代、ウイルスとの闘いを戦争に例える国のリーダーもいるが、戦争は市井の人々の声も命もかき消してゆく。単純化された視点に立たずに深呼吸しながら考え続けること。著者に引用されたプーシキンの「優れた人々は跡形もなく我々の許から消えてゆく、我々は怠惰で無関心である」。怠惰と無関心では生きられないであろうポストコロナの時代へ。
 
 
【5冊目】
 

畑中章宏 『災害と妖怪〜柳田国男と歩く日本の天変地異〜』

(亜紀書房)
 
柳田国男以降の民俗学が明らかにしたように、日本列島各地には河童や天狗などに代表される妖怪がかつては存在した。もちろん実在とは違うが、それらの存在は天変地異をもたらす神の使いや逆に護り神としての機能を果たしていた。しかし近代化し、その存在や機能を忘れた頃、天災は再びやってくる。病疫もまた天災のひとつだ。
 
 
【6冊目】
 

岩根 愛 『キプカへの旅』

(太田出版)
 
著者は一昨年、木村伊兵衛賞をとった写真家だ。ハワイの日系人を中心に踊られているボンダンスが、福島の盆踊りにルーツを持つのではということを描くノンフィクション。写真展自体も素晴らしいものだったが、丹念な取材に基づく愛に溢れたハワイと福島への鎮魂歌。なお、キプカとはハワイの言葉で「新しい生命の場所」とのこと。
 
 
【7冊目】
 

鷲田清一 『濃霧の中の方向感覚』

(晶文社)
 
先が見えない、答えがない不安に世界は包まれている。しかし、彼は問う。未来は不確定なものばかりではなく、実は確実に来るものもあるのではないかと。それに目を背けた結果、どこから対処してよいのか分からなくなり、人々は途方に暮れ、不安は増大する。臨床の知を通奏低音として変奏される現代批評としての箴言集。

 
志賀 究
 
 
以上、志賀先生からのおすすめの7冊の紹介でした。
変化し続けるもの、いつの世も変わらぬもの。その中で自分自身で思考し、行動をしていく。私も渥美半島の片隅で、ささやかに「今」に学び、「知」に学び、考えることを続けていきたいと思います。志賀先生、ありがとうございました。